Amazonでアルバイトをすることになった

くまおさんの話ではなく、前に勤めていた会社の社長の話です。1年ほど前にお父さんと会社を設立しました。それまではお父さんが役員を務めている会社の一部門で建築と化学品の事業を行っており、会計も事務所も事業も完全に別だったので、事実上自営業の様な状態で仕事をしていました。その事業を一式引き継ぐ形で新会社を設立したわけです。事業開始後まもなくコロナ禍で経営に大ダメージを受けましたが、初年度は何とか黒字でした。

その時に所属していた会社は、元々はお父さんの経営者仲間の会社で、くまおさんも小さい頃からよく知っている社長が経営しています。そして、その会社の事業は旅行代理店です。従業員が数名の零細企業です。売り上げ規模で3億円くらい。これが、コロナ禍で大ダメージを受けました。2月ごろから現在まで、売り上げがほぼゼロになりました。半分とか8割減ならまだマシです。ゼロです。

昨年資本を切り分けたので、くまおさんの会社にダメージが及ぶ事はなく、本当に神がかり的な独立だったと言えます。とは言え、心配ではあります。

世間ではGOTOトラベルが発動されました。10月からは東京も対象になり、旅行需要が見込まれています。くまおさんはこの政策に賛成です。観光業は裾野が広い仕事なので、経済を回すことにとても重要な意味があると考えているからです。

さて、ただこの政策は零細旅行代理店にはほとんど好影響が届かないという話を書こうと思います。なお、くまおさんは旅行の専門家ではないので多少の齟齬があるかもしれませんが、一応同じ会社に所属し見聞き、一部体験した経験をもとに書きます。

その前に、零細旅行代理店というのはどんな仕事をしているのかをざっくりと書きます。まず、個人ユーザーの仕事はほとんどありません。法人がメインで、例えばライオンズクラブとかロータリークラブとか、商工会やらの経営者団体の研修旅行(という名のお遊び旅行)や、会社の社員旅行等がメインとなります。または、海外からの興行など(例えば南米の僻地からエンターテーナーを連れてくる)のビザや旅券、ホテル、日本での移動手段等の手配を行ったりしています。こういった仕事は言い値なので利益率が高いです。

ネットが発達している現代において、個人ユーザーはJTBやHIS、楽天トラベルやるるぶトラベルなどで様々な条件を比較しながら旅行の手配をします。ちなみに、くまおさんも家族旅行は自社を経由することなく、ネットサイトで直接予約します。なぜならその方が安いからです。零細旅行代理店の仕入れ値よりも一般ネット価格の方が安いという事は日常的にあり得ます。

そして、零細企業はこれらのネットシステムを有することは無理です。ただ、ネット手配には実は結構制限があります。例えば、団体旅行です。予約サイトなどはせいぜい2ファミリー位の旅行しか想定していないので、大人数だと予約が出来ません。また、例えば「社員旅行30名で伊勢神宮参拝をしたい、お札をもらいたい」といった希望がある場合、前もって神宮に連絡予約の必要があったりしますし、バスの手配やはたまた、そのバスの駐車場の手配も必要です。お土産屋さんに寄るにしても、駐車場やら食事の予約やら、団体旅行というのは結構手間がかかります。

これらは、なかなか個人手配が難しく旅行代理店に依頼することになります。例えば上場企業などはJTBなどに依頼した方がスムーズです。繁忙期に300名でハワイ旅行に行きたい!みたいな需要は零細旅行代理店だとこなせなかったりします。また、何か問題が発生した際にうまい落としどころを見つけてくれたりするわけです。くまおさんが前に所属していた上場企業ではJTBの専任担当者がおり、定期的に来社していました。様々な部署のキャンペーン旅行や代理店旅行、懇親会の手配や、ホテル部屋の調整など様々な手配を依頼していました。ホテルの大宴会場を借りる際もあえてJTBを通して(小さい会議所程度ならホテルと直接打ち合わせした方が当然安いです。)、企業側としてのリスクヘッジをするという事もあったりします。

話を零細旅行代理店に戻します。コロナ禍で法人旅行が全てキャンセルになりました。海外からの興行も当然すべて中止です。もともと個人ユーザーは受注していないので細かな旅行手配の仕事もありません。やはり一番大きいのは法人の社員旅行だと思います。昨年もハワイに100名程度を送り出す旅行があり、海外旅行なので単価も高く、利益率も上々でした。海外旅行に関しては、まず各国の渡航制限が解除されねばならないので、日本政府だけの問題ではない上に、解除されても消費者心理が大きく影響します。また、これから来るであろう不況においては法人の団体旅行ニーズが確実に縮小します。福利厚生費は確実に削られるからです。

これらの無くなってしまった需要を国内旅行の単価で補う事はかなり難しいうえに、国内団体法人旅行すら頻度が激減するであろう事を考えると、零細旅行代理店は四面楚歌です。

また話がそれますが、社員旅行って個人手配に比べて随分高い気がしませんか?そう、実際に高いのです。その理由をJTBの担当者に聞いたことがあります。例えばハワイハイアットリージェンシーで100名50室を同時に抑えようと思うと、かなり大変であり、当然コストもかさむので値段が上がりますと言っていました。個人旅行の数室程度なら何とでもなるものの、ある程度まとまったフロアで、決まった日に大量の確保はとても大変だと。だから割高になりますと説明を受けて、なるほど、そんなもんなのね。と納得した記憶があります。

また話を戻します。文字通り売り上げがゼロになったわけです。何度も言いますが、ゼロです。9割減ではなく、ゼロです。同じような状況の零細旅行代理店は結構存在しており、今回のGOTOトラベルは、主に国内個人旅行をターゲットにした政策なので、零細旅行代理店にはほとんど好影響が届かないという事になる訳です。

そりゃあ、多少はお問合せは増えます。例えば、懇意にしている企業のオーナーがGOTOきっかけで、個人旅行に行きたいので手配してほしいといった引き合いは増えています。しかし、企業オーナーなので豪勢とは言え、せいぜい1泊2日で10万円といったところが限度です。旅行社側からすると5万円で20人送り込むのと、10万円で1名送り込むことの手間は極端には変わりません。個人旅行はあまり利益に貢献してくれないというのが正直なところです。

GOTOトラベルが10月1日から東京でもスタートします。ちなみに、当社は東京の会社です。しかし、上記のような状況なので、前会社の社長は10月からAmazon工場での仕分けのアルバイトを始めるそうです。週4日夜勤で18万円位にはなるそうです。還暦を超えて、且つ長年社長をやってきた人には辛いことだと思います。正直、アマゾンで働いても何のスキルも身につかないと思いますし、年齢や事業先行きの心労を考えると、疲れ果てるでしょうから、いざ本業に事業チャンスが舞い戻ったとしても復活するのは容易ではないと思います。

知り合いの旅行代理店では社長を奥様に変更して、社長が平社員になり、雇用調整助成金をもらってしのいでいる会社もあるようです。1.5万×20日なら30万円にはなるので、生きてゆくだけなら何とかなります。今までずっと黒字で税金を払ってきたので、こういった方法も一時的にはありなのではないでしょうか?

旅行業なのでコロナ禍の特別貸付(実質3年無利子無担保、3年後~有利子)は真っ先に借りることが出来た業種です。しかし、これはあくまでも借金であり、3年後には利子も含めて返済が始まります。通常に日常が流れていれば借りる必要のなかったお金と利子を背負うわけですから、経営にとっては悪影響です。この辺りは、経営者視点か従業員視点で見え方が変わります。当時連日ワイドショーで「無利子無担保」ばかり強調されたので、「何の負担もなくお金が借りられる」と勘違いしている人が多いようですが、利子はかかりますし、さらに言うなら代表者が連帯保証人にならなければならないでの、事実上の個人借金が増えます。日本では企業の倒産と代表者の破産がセットなのですが、こういった事実は学校では教わりません。破産するとやはり色々と大変です。まあ、世間で言われているほどは大変ではありませんが、色々と制限があります。くまおさんはお父さんが経営者だったので、子供の頃からそういった人々をたくさん見てきました。中には悲しい結末を迎えてしまった人もいますが、大多数は元気に暮らしています。

そもそも話で言えば、インバウンドが大盛り上がりしていた観光業界ですが、零細旅行代理店はその恩恵をあまり受けられていませんでした。というのも、零細旅行代理店はスキルが高くない会社が多く(ホームページすらまともに持っていない)、受発注をいまだにFAXや電話で行っていることも珍しくありません。当然、軽快に海外の顧客を捌けるスキルは持っておらず、代理店というのはあくまでも中抜き事業なので、仕事は減る一方でした。基本的には紹介と信用で成り立っていた会社なので、新規顧客開拓をガンガン行うスキルや知見もありません。

巷では、エンドユーザーは便利なネットで自ら手配し、旅館やホテルも自社独自PRや楽天トラベルなどのプラットフォームで自ら集客をする為、零細旅行代理店は経由しないわけです。それらに頭を悩ませているのはJTBなどの店舗型大手企業も同じで、ここ数年は実店舗を減らしたりしています。その分、大手はIT化を進めるわけですが、零細旅行代理店はそんな資金もアイデアも能力もありませんから、斜陽業界だったわけです。そんな事はもうずっと前から分かっていた事であり、その対策を全くしてこなかった、出来なかった零細旅行代理店側にも責任があります。定期的に発生する中国の対日感情悪化や、韓国の反日運動の際に観光客が9割減という事は過去に何度も体験しています。しかし、今回はそれらを織り込んで対策を行ってこなかったつけが出たとも言えます。

とは言え、コロナ禍は急激すぎました。往来が一瞬でゼロになったわけですから、さすがにここまで想定できた人はいないことも事実です。

余談ですが、コロナ禍の最中に世界中のホテルやら船舶などを二束三文で買いあさっておけば将来絶対に需要が戻るので儲かると思います。当然、それらに耐えられるだけの資金が必要ですが・・・

自社に置き換えて考えたとき、くまおさんが現在の仕事を始めたとき当社は99%が建築関係からの収入でした。しかもほぼ1社からの受注です。しかし、人口が減って行く日本において建築需要が減少することは確実です。ですから、建築売上に頼る事は危険だと判断し、別事業の成長に注力しました。

それから、5年たった今、会社全体の売り上げに対して、建築売上の割合を40%まで減少させることが出来ました。ちなみに、コロナ禍でその取引先の戸建事業が約50%縮小し、建築売上がガッツリ減少することが今後見込まれています。別事業が何とか育ってくれたので助かっています。とは言え、結構きついです。

今はまだ分かりにくいいですが、2~3年後から景気が急激に悪化すると思います。失業者も増えるでしょうし、これだけお金をばらまけば、さすがの東京都も疲弊するでしょう。その時の都知事はもう小池百合子さんではないでしょうから、次の知事は大変だと思います。そんなこんなで、消費者心理が冷え込んだ日本は結構きついと思います。社会維持コストが中進国に比べて極端に高く、国民の平均年齢も年々高くなるので、身動きがとりにくい国になってしまいました。とは言っても、日本はまだまだアジア諸国から見れば自国の歴史をしっかりと積み重ね、保存、活用してきた憧れの国だそうです。母国語すら失った国々からすれば、過去の知見に学ぶことができる日本はまだまだ世界でも優位な国だと言えます。だからこそ、その優位性を生かしてアジア諸国でビジネスをやってみたいと常々考えています。

クアラルンプール、バンコクあたりに住みたいな~