営業は科学である

新卒の頃にコーチングを受けていた際のコンサルタントの言葉です。

「営業は科学である」

何言ってんだこいつ?と思っていましたが、最近何となくその意味が分かるようになってきました。
くまおさんは仕事柄、1級建築士や1級建築施工管理技師の方と接する事が多く、色々と話をする機会があります。建築士の場合、試験に合格したからと言って仕事ができるわけではなく、現場経験を積みながらスキルや仕事の仕方を覚えてゆきます。
その為、ある一定年齢までは経験年月とスキルが比例して高くなってゆきます。

お付き合いのある建築士の方は、独立して設計事務所を運営している方が多いのですが、それらの方が一様に仰るのが「営業が出来ない」という事です。「そりゃあそうだろうよ。」とくまおさんは思います。

元々勤め人の建築士としての仕事をしている場合、完全なる新規開拓営業を行う事は極めてまれであり、下りてくる仕事をいかに上手にこなしてゆくのかが、建築士スキルとして評価されます。その為、独立前の建築士の方は「自分でやればもっと効率的に仕事をこなせるはずだ」と考え独立するわけです。そして独立後に、そもそも仕事を取ってくるという概念を自身が持っていなかったことに気が付き呆然とするそうです。

ちなみにくまおさんは建築士になりたくて、工学部建築学科を卒業しており、1級建築士試験も2回受けていますが合格していません。

こんな会話がありました。

くまおさん
「建築士の仕事って、経験によって培われるものが多いですよね。くまおさんも建築学科出身なので建築士の受験資格はあるのですが、仮に試験に受かったとしても皆さんと同じように作業するのは一朝一夕ではできません。」
建築士
「そうですね。建築士は現場をこなして職人さんに怒られたり、先輩や上司に教わりながらだんだんと覚えることが多いですね。」
くまおさん
「実は営業の場合、だんだんと仕事を覚えるという事が無いのです。どんな商品でも顧客の方が商品知識が少ない事がほとんどなので、商品知識の大小と売り上げの大小に相関関係はありません。ありていに言うと商品の事など知らなくても売れます。」
建築士
「!!!そうなんですか?」
くまおさん
「そうなんです。新規開拓営業の場合、新卒がベテラン営業マンに勝つという事は日常的に発生します。でも、建築士の世界ではありえないですよね?」
建築士
「ありえないですね。てっきり営業も経験しながら学んで行くものだと思っていました。」
くまおさん
「そりゃあ、ある一定の商品知識を覚える為に時間のかかるものもありますが、ほとんどのものはカタログスペック程度を頭に入れておけば顧客の商品知識を上回るので問題ありません。」

例えば、くまおさんは15年以上の営業経験があります。同じ年代の建築士の方と比較すると、その彼ら彼女らが建物の勉強をしたり、施工、法律等を一生懸命学んでスキルを上げている間中ずっと、「どうやったらお客さんが買ってくれるのか?」「どうやったら断れれないのか?」「買ってくれる顧客はどこにいるのか?」という事ばかり考えてきました。15年間ずっとです。

くまおさんは元々営業マンのコミュニティに所属していたので、それが当たり前だと思っていましたし、あまり違和感がありませんでした。しかし、零細企業に移って技術職の方々と話をする中で営業に関する知識やスキルの低さ、根本的な対外的対応能力の欠落を目の当たりにし衝撃を受けていました。
建築系の大企業でも技術職の人はメールを返信してきません。それがデフォルト設定です。メール文面も稚拙なものが多く、教育を受けていないことが見て取れます。元々、社内や決まった取引先、下請け業者とのやり取りがメインなので、問題になることが少ないからだと思います。一般的な営業会社ではありえないやり取りが日常的に行われ誰も疑問視しません。メールの返信が無いので意思疎通の行き違いが年中発生しますが、皆同じ状況なので改善すべきであるという流れがおこらず、受け入れられています。

そういった方たちは営業と真正面から向き合った事が無いので、どちらかというと営業マンに対してマイナスのイメージを持っています。営業マンは口がうまく、顧客に適当な事を言って現場に尻拭いをさせると、多くの建築士が考えています。
ですから、自身が営業をしなければならない身になった時に、口先上手くなろうとして失敗します。そもそもその考えが間違っているのですが、指摘してくれるプロの営業マンは身近に存在しません。

くまおさんは、今の会社に移ってから「何故、この会社の人はこんなに不確実な“勘”で営業しようとするんだろう?」と不思議でなりませんでした。でも、時間が経過して概ね分かってきました。

くまおさんは、15年間「売る事」しか考えてこなかったわけです。一方、技術者の方は「技術を身に着ける」という事に時間と労力をかけてきました。
という事は、くまおさんが技術の事が一切わからないのと同じレベルで、技術者の方は営業の事が一切わからないのだと認識しました。それならば、顧客対応スキルの低さも十分に説明できます。

ただ、ここで残酷な真実があります。営業マンの「売ってくる」能力はある種先天的な物であり、経験で身に付きません。一定の先天的なスキルを持った人間が更に勉強する事で能力を伸ばすことは十分にありますが、そうでない人間が勉強しても「売れる」ようにはなりません。これが技術者と営業マンの決定的な違いです。

くまおさんは昔から「かえらない卵はかえらない。無精卵はいくら温めてもかえらない。」と言い続けています。技術者の業界でも似たような事はあると思いますが、営業マン程如実には出ないと思います。売れない営業マンはいつまでたっても売れません。

経験を積めま少しはマシになると考えたい気持ちも分かりますが、営業マンにおいてはそれはあり得ません。少しづつ成長するという事が無いからです。こういう発言をすると周囲から「冷たい冷酷な奴」扱いをされます。でも・・・事実だからね。仕方ないですよね。事実なんだから。働き方改革とか色々と言われていますが、零細企業では出来ない営業マンを雇っている余裕はありません。会社が潰れてしまってはそもそも職が守れませんし、法人税も払えません。出来ない営業マンに給料を払うなら、出来る営業マンに2倍の給料で3倍働いてもらいます。これが営業現場のリアルです。

お付き合いのある経営者の方に聞いたことがあります。

くまおさん
「出来ない営業マンが出来るようになったケースを見たことはありますか?」
経営者
「ない。先代の社長から言われたことがある。“なし、はどこまでいってもなしだよ。”」

※【なし】とは栄養のないもやしの様なもを指すそうです。

百戦錬磨の還暦越えの社長さんでも、出来ない営業マンが出来るようになった実例を見たことがないそうです。当然くまおさんも見たことがありません。

ここまでくると「営業は科学である」というのも分かる気がします。