ブラック企業Episode2

くまおさんが新卒で入社した会社は浄水器の訪問販売がメインの会社でした。
だいたい原価が1万円もしない製品を30万円で販売します。これが、まあひどい。お客さんもひどい。

水道直結型の浄水器で、活性炭フィルターの浄水器です。くまおさんは下っ端だったの詳しくはわかりませんがおそらく仕入れは精々1万円位だと思います。この浄水器とお風呂用の浄水器(シャワーの手前に咬ませる感じ)のものをセットにして40万円以上だったかな~と。

幸いにしてくまおさんは浄水器部門には配属されず、太陽光発電システム部門でした。
その後、くまおさんは出世して浄水器部門の部下を持つことになり色々と聞いたり目の当たりにしたという次第。

会社から、営業ターゲットは基本的に社会的弱者だと教えられます。
低所得者、障害者、未亡人等がメインターゲットです。そしてこれらの方が多く住んでいる場所を重点的に狙います。
団地、古い平屋賃貸(※ベタ屋と呼んでいました)が狩場です。整然とし住宅街や高級マンションへは行きません。あくまでも低所得者や知識のあまりない層を狙います。
なぜこれらの人々を狙うのかというと、落としやすいからです。一応、詐欺商品を販売している訳ではなかったので、ちゃんと説明して納得して購入してもらいます。その際に説得が容易な人が良いお客さんであると教え込まれまれていました。その為にはあまり社会的地位が高くない、考える事が得意ではない層が望ましいというわけです。

この時点で、一般的に営業会社で教えてもらう事とは方向性が違います。一般的な営業会社では自社製品をプライドを持って売ることを求められます。ですから難しいお客様を落とすことが称賛されます。そして、それらがテレビドラマや雑誌、書籍などで出版されるので多くの人は「営業マン」というとその様な人を想像します。

でも実際の現場は違うのです。

浄水器の営業方法は具体的には下記の様に行います。

アポインター
「こんにちは~!蛇口は何か所ありますか?」
お客様
「え・・・3か所だけど・・・」
アポインター
「では汚れを取る為の水道コックを設置しますので失礼します~」
アポインター
「では後ほど担当者が説明に参りますのでよろしくお願いいたします。」
※浄水器用の蛇口切り替えコック設置完了

続いて
セッター
「先ほどコックを設置しましたが、あれはあくまでも汚れを取るコックなので、その汚れを貯めておくタンクが必要です。そちらを設置しますね~。ちなみにこちらは月額料金がかかりますので。後ほど説明に上がります~」
※浄水器の本体タンク設置完了

クローザー
「月額料金の場合、ずっとかかりますが買い取っていただければ月額〇〇円です。どちらになさいますか?」
※ローン申し込み完了

とまあこんな感じです。これはとてもスムーズに契約になるケースですが、先ほどの属性だとこの流れでも結構契約になります。
その他にもコンプレッサーを持ち込んで無理やり水道管の赤さびを出して脅かしたり、試薬で塩素検出して大騒ぎしてみたり・・・色々です。

お客様によっては日銭に困っている人もいるので、40万円の商品ローンを水増しして100万円ローンに変更し、60万円を現金でキャッシュバックすることで契約するなんてこともありました。冷静に考えれば金利が高いのでとても損をするのですが、あまり深く物事を考えない属性の人の場合「浄水器が付いてなおかつ現金まで手に入った~ラッキー♪」の様に考えたりします。

実に浅はかですが、日本にはこの様なエンドユーザーが一定数存在します。そしてそれらのコミュニティ同士で結婚し子供を産むので、同じようなコミュニティがエンドレスで生まれ続けます。いくら法整備をしても無くなりませんし、彼らに声は届きません。

お客様の中には、水道局だと勘違いして対応される方も多数います。それらを訪販員は「きょっかん」と言っていました。「水道局勘違い」の略です。
障害者を持つ世帯等にも突撃アタックをいといませんでした。それらの親御さんは購入しやすい顧客層です。

営業にあまり精通していない人や、比較的綺麗なセールスを体験してきた営業マンは勘違いしています。
お金があるから購入するのではなく、購入してしまうからお金が無いのです。実際にはお金が無い世帯の方が購入してくれます。

ですから、上記のような事を肌で感じていたくまおさんは上場企業の会議で出てくるマーケティング理論に反対する事が多かったです。
多くの優秀は人々は新規サービス等を始めるにあたって顧客層を設定します。その際に「所得が高く余裕がある人」を選びたがります。そして大体その企画は失敗します。

良い例として「シニアマーケット」があります。
シニアはお金と時間の余裕があるから色々と課金してくれるだろうという推測です。しかしこれは多くの場合で間違えです。お金をたくさん持っているシニアはお金を堅実に貯めてきたり、節約してきたからこそお金を持っているわけであって、シニアになった途端にお金を使うという事はありません。
また、ある程度のお金を持っているシニアは会社内でもそれなりの役職についていた可能性が高く、頭が良い人が多いです。すると彼らは衝動的な消費はしない傾向が強いので消費にむずびつきにくいのです。ですから「シニアマーケット」にアプローチして成功している会社ってほとんど聞かないですよね?
名だたる大企業達がそれらの企画を提案していますが、爆発的ヒットはあまり見かけません。それは、そういう事です。

一方あまり所得が高くないものの消費意欲の強い層が存在します。それがファミリーであり、マイルドヤンキーや低知識層です。かれらは消費欲が強くお金を浪費してくれます。これらの層にアプローチしている会社がパチンコ会社であり、それが移り変わってスマホゲームに移行しています。いまやDeNAはプロ野球球団を持つ大企業です。

話は戻りりますが、浄水器部門がさらに売上をUPさせるために「活水器」なるものを売り始めました。大きめの磁石を水道管にはめ込むというものなのですが・・・3万円位の定価の商品をOEMで仕入れて自社ブランド化し、40万円で売り始めました。メーカー説明によると1個で十分という話だったのですが、40万円で売る為に2個セットでの販売にしました。

驚くかもしれませんが、何の変哲もない磁石が40万円でバンバン売れるのです。そういう世界が日本にはあります。

 

未亡人や高齢者など「決済の際に相談する人がいない」人はかっこうのターゲットです。訪問販売の基本は即決営業なので意思決定者がなるべく少ないという事も訪問の際には大事なポイントです。

 

しかし、そんな事ばかりやっていると営業マンは精神がすり減ります。その為、給料で釣ったり、賞金を出したり、コンサルで洗脳したり・・・色々と策を弄します。それでも人が居なくなることは日常で社内は気にも留めません。大体このような営業を年収400万円代くらいで行わせるので会社はとても儲かります。