ブラック企業Episode1

新卒で入社した会社がブラック企業でした。(※くまおさんはそう思っています。)
入社した当時の社長はまだ20代。社員は100名弱で年商30億といったところです。世間知らずの、さほど勉強が得意ではないくまおさんにとっては光り輝いて見えました。

社長の管理職休みなし宣言や罰金制度、有給消化できない、労基署無力、従業員が飛ぶ、借金、ベンツの押し売り・・・話は沢山ありますが順番に書き記そうと思います。

この会社は浄水器の訪問販売をメインとした会社で、くまおさんが入社する前年から家庭用太陽光発電システムの販売を開始していました。くまおさんはの代の新卒は全員太陽光発電システム販売の部署へ配属になり早速研修が始まります。

訪問販売のイメージが付きにくい方に簡単に説明すると、個人宅のインターホンをは端から順番に押してゆき初めて出会う方に物を売る仕事です。大体9割以上は断られたり、無視されたりします。精神的に結構きつい仕事です。

入社してすぐに挨拶の研修です。同期は15人いたのですが、挨拶研修で1名退職しました。
この研修というのが・・・とにかく大声で、全力で、声が枯れるまで、きっちりと挨拶(だけを)をするというものです。「指が伸びでな〜い!」とか「声がかすれている〜やり直し!」とか。
そんな感じで「俺達は応援団か!?」と突っ込みたくなるレベルで挨拶研修です。もうね・・・夜遅くまでずっとですよ。しかも新卒研修は泊まり込みなので時間制限無し。

その後、怪しいコンサルタントが登場し、社長のことを絶賛した後、新卒全員に自社で取り扱っている浄水器のローンに契約をさせるというブラックっぷり。40万円近い浄水器を新卒15人全員に購入させるという荒業を成し遂げます。みんな、入社したばかりですからおかしいと思っていても契約しないという選択肢はありません。契約しなければ会社に残れないからです。くまおさんも、もれなく契約させられました。

そんなこんなでスタートしたブラック企業での新社会人生活は、その後の日常でも遺憾なく発揮されます。
まず、社長室の机にはでっかい日の丸国旗がかかっています。そして背後には日本刀の長剣と脇差しセットと神棚。
副社長の机の脇には○○幕僚長と書いてある竹刀が立てかけてあります。

なぜこういう会社は右寄りなのでしょうか?右翼か?

とにかく毎日大声で挨拶をする必要がありました。
自分より上席の人すべての目の前まで行って、一人ひとり挨拶しなければなりません。
その後、現場を出る時は壁に大きく掲げてある「信念」と書いてある訓示を大合唱してから出発です。

 

信念

「もし、あなたが敗れると考えるのなら、あなたは敗れる。
あなたがどうしてもと考えないなら、何一つ成就しない。
あなたが勝ちたいと思っても、勝てないと考えるなら、あなたに勝利は微笑まない。

もし、あなたがいい加減にやるなら、あなたは失敗する。
我々がこの世界から、見出すものは、成功は人間の意志によってはじまる。全ては人間の精神状態によって決まるということだ。

もし、あなたが脱落者になると考えるなら、あなたはその通りになる。
あなたが高い地位に昇ることを考えるなら、勝利を得る前に、必ず出来るという信念を持つべきだ。

人生の戦いは、常に強い人、早い人の歩があるのではない。いずれ早晩勝利を獲得する人は「俺は出来るんだ」と考えている人だ。」

 

これはブラック企業やエセコンサルタントが大好きなナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」の一説です。
そして現場にゼンリン住宅地図をコピーしたファイルを持ち出かけてゆきます。移動車がなかったので、テリトリーまでは電車で移動します。電車賃は当然自己負担です(笑)

当時は新卒だったのでそれが当然だと思っていました。
くまおさんはそんな中で同期15人の中で最も早く売上を立てました。その後も基本的には1位をキープし続けました。
この頃に、営業とは確率の問題なんだと学んだのです。結局、サボらずに一番たくさんインターホンを押しているくまおさんが一番になることは分かりきったことでした。

同期はある時突然いなくなります。
それを会社では「飛んだ」と言っており日常です。

そんな会社ですが新卒の営業教育に関してはとても熱心でした。新卒3ヶ月目までの仕事の経験が一生の仕事の基準値となるので3ヶ月はとにかく負荷をかける事が大切であるというのが当時の社長の言い分でした。
ですから、外部のコンサルタントを招いて毎週コーチングし指導がありました。また社長自ら営業研修を実施してくれました。この社長の営業力は驚異的です。

かなり教育には資金投下をしてくれていた印象です。くまおさんのリテールセールスに関する知識はこの時期の教育がベースになっていることは疑いの余地がありません。

でも・・・ブラック企業なのです。
数字が上がらない場合、毎日毎日上席の担当者から詰められます。なんで攻撃です。

新卒
「今日はアポイントが取れませんでした・・・」
リーダー
「なんで?」
新卒
「在宅率が低くて・・・お客様と話ができなくて・・・」
リーダー
「なんで?」
新卒
「・・・。」
リーダー
「黙っててもわからないんだけど。お客様と話ができないのはなぜ?」
新卒
「お客様に出会えなくて・・・。」
リーダー
「なんで会えないの?」
新卒
「・・・訪問している件数が足りないからです。」
リーダー
「じゃあどうするの?」
新卒
「・・・・・・・・休日に出勤して足りない分を補填するために頑張ります」
リーダー
「あっそう。」

このような感じで毎週休日が潰れます。
月末になっても売上が上がらなかった場合、翌月の月初会議で激詰めされます。
まず全営業マンの前で吊るし上げられます。その後、みんなに向かって整列です。

事業部長※整列した営業マンの前をあるきながら・・・。
「お前らの給料はどこから出てるんだ?」
成績不振営業マン
「・・・みなさんが頑張って売ってきてくれた売上からです・・・。」
事業部長
「そうだよな〜。じゃあみんなに言うことがあるだろう?」
成績不振営業マン
「・・・申し訳ありませんでした・・・。」
事業部長
「何?聞こえないよ。もっと大きな声で言えよ。」
成績不振営業マン
「売上が上がらず申し訳ございませんでした。」
事業部長
「あっ?声が小さい!」
成績不振営業マン
「売上が上がらず申し訳ございませんでした!」
事業部長
「あっ?声が小さい!」
成績不振営業マン
「売上が上がらず申し訳ございませんでした!!」
事業部長
「あっ?声が小さい!」
成績不振営業マン
「売上が上がらず申し訳ございませんでした!!!」
事業部長
「あっ?声が小さい!」
成績不振営業マン
「売上が上がらず申し訳ございませんでした!!!!」
※エンドレスリピート・・・。

くまおさんはトップセールスだったのでこの辱めを受けることはありませんでしたが、本当に最悪な気分になります。

でもね・・・給料が結構良かったのです。
普通の会社であれば初任給が1年間続いて定期昇給が幾らか?みたいな話になると思うのですが、ブラック企業の場合は成果給がダイレクトに反映されます。ですから、くまおさんは新卒として提示されていた給料をもらったことは5月の初任給だけしかありません。それ以外は必ず成果給が付いていたので悪くない給料でした。

6月に支給された給料は4月の成果給が加算されていたのですが、軽く50万円を超えました。新卒として2回めの支給給料が50万円って凄くないですか?まだ22歳ですからね。早速、その内の10万円を使って当時の彼女(現在の奥さん)とディズニーリゾートに宿泊し2日で使い切りました。

そんなこんなで、1期上の先輩を追い抜いて半年で自分の訪販チームが持てるリーダーという役職に昇進しました。そこでも色々と面白いことがあったのですが、それは次回以降という事で。